rTMS治療とは
抗うつ薬を服用してもうつ病が改善しない方に、rTMS治療(反復経頭蓋磁気刺激治療)をお勧めします。この治療は磁気を利用して脳を刺激して、うつ病を治す新しい治療法で、日本では2019年6月より保険診療が始まりました。浅香山病院では2020年1月よりrTMS治療の保険診療を行なっており、2025年3月までに48名の治療実績があります。
適応範囲はまだ限られていますが、抗うつ薬治療で効果が十分でない方に、この治療をお勧めします。ご希望の方はぜひ一度ご相談ください。
rTMS治療でなぜうつ病が治るのか
近年の研究により、うつ病は心の病ではなく、脳の疾患であることが解明されてきています。
うつ病では前頭葉の機能が低下し、脳深部の情動や自律神経を司る部位の調整がうまくいかずに、うつ気分や食欲低下・睡眠障害を起こしていると考えられています。そこで磁気で刺激して前頭葉の機能を回復させると、うつ病が改善すると考えられています。
rTMS治療ではコイルに電流を瞬間的に流してパルス磁場をつくり、それによって脳内に電流を誘導して神経細胞を刺激します。
電気けいれん治療ECTとの違い
うつ症状が重症な方、たとえば精神病症状、緊張病症状、切迫した希死年慮がある方や速やかな改善が必要な身体的・精神的状態の方にはECTを優先します。当院でもECTを行なっていますのでご相談ください。
適応となる方・セルフチェック
うつ病にて治療中の方のうち、適応となる方にrTMS治療をおすすめしています。
- 中等度以上のうつ病であること
- 抗うつ薬による十分な治療によっても、期待される効果が認められない方
- 18歳以上
うつ病でも、現在中等度以上でない方、抗うつ薬治療を受けたことがない方、 双極性障害の方などは適応になりません。また、その他の疾患の状況等により、適応とならない場合もあります。
”うつが中等度”のセルフチェック
抑うつ症状によって就労や就学などの社会活動が制限されている状況を一つの目安にしていますが、正確には心理士によるうつ病重症度評価尺度の一つである「HAMD17」を用いて評価します。
ご自身で簡便にできる評価尺度として「QIDS-J」があります。一般社団法人 日本うつ病センターのページでは「QIDS-J」によるセルフチェックを行うことができ、11点以上が中程度の目安となります。
適応とならない場合
うつ状態でも適応とならない方
- 現在中等度以上でない方
- 抗うつ薬治療を受けたことがない方
- 抗うつ薬の服用が不規則な方
- 双極性障害の方
- 電気けいれん療法を優先すべき方
- 今回のうつ病エピソードにおいて、すでにrTMS治療を受けたことがある方
- 認知症や器質性・症状性の気分障害の方
- アルコールや向精神薬などによるうつ状態の方 など
治療の適応とならない方
人工内耳、脳内の磁性体クリップ、心臓ペースメーカーを有する方
適応となるか慎重な検討が必要な方
- 刺激部位に近接しないものの、金属(インプラントなど)を有する方
- てんかん・けいれん発作の既往やリスクのある方
- けいれん発作の閾値を低下させる薬物を服用の方(三環系抗うつ薬、マプロチリン、テオフィリン、メチルフェニデート、ケタミン、クロザピン、ゾテピンなど)
- アルコール・カフェイン・覚せい剤の乱用、離脱時の方
- 妊娠中、重篤な身体疾患を合併する方 など
治療の効果と副作用
治療効果・実績
症状がほぼ消えた状態(HAMD17で7点以下)を寛解といいます。浅香山病院では2020年1月から2025年3月までの期間で、合計48名の方を治療し、寛解率は52%でした。
rTMS治療は新しい治療法のため全国で研究が進められており、当院を含む関西TMSネットワーク(※)の102名のデータでは寛解率43.1%、全国施設508名のデータでも寛解率42.8%と、高い効果が期待されています。
※関西TMSネットワーク:浅香山病院、大阪医科薬科大学、関西医科大学、阪南病院、和歌山県立医科大学が参加
副作用
多い副作用として、刺激中にだけ刺激部位の頭皮に痛み等がありますが、数回の治療で慣れることがほとんどです。
重篤な副作用としては、けいれん発作(0.1%未満の割合)が起こることもありますが、従来の薬物治療や電気けいれん療法(ECT)に比べて副作用が少なく、安全性が高いことが特徴です。
治療の流れ・費用
お問い合わせから治療までの流れ
書類による判定
まずは適応の可能性があるかどうかを確認させていただきます。
お電話にてご相談いただきましたら、以下の書類をFAXでお送りいたします。
- 診療情報提供書(主治医作成用)
- 事前問診票
ご自身でわかる範囲でご回答いただき、当院宛にご郵送ください。
診察
適応の可能性がある方はご予約をお取りいただき、診察いたします。
詳しい問診、心理検査、MRI、脳波などを行うため、複数回のご来院が必要になります。
適応になると判断された場合は、ご説明をお聞きいただいた上で、治療を開始します。
治療期間・治療の流れ
入院治療となり、約6週間です。一回約40分、週5日のrTMS治療を計30回行います。入院中に作業療法に参加される方もおられます。
治療開始3週目で治療効果の中間判定をし、
・治療効果がない方は治療終了
・治療効果がある方はさらに3週間の継続
・寛解(回復)しておられる方は中止
となります。
費用について
入院費は食事療養費なども含めて、3割負担の方の場合は自己負担額が約60万円(6週間合計)ですが、高額療養費制度を適用すると約13~50万円(所得により変動)になります。
お問い合わせ先
rTMS治療について詳しい話をお聞きになりたい方は、ぜひ一度ご相談ください。
お問合せ先:
公益財団法人 浅香山病院 精神科医療連携室
TEL:072-229-4882(代表)
所在地:大阪府堺市堺区今池町3丁3-16
浅香山病院は精神科を中心とする総合病院として100年の歴史があります。
rTMS治療は保険診療の認可直後から導入し、安全で高い有効性の実績を持ちます。複数の医師、看護師、臨床心理士のrTMSチームで治療にあたっています。
国際・国内学術誌に複数の論文、総説を発表し、またチーム医師がrTMSに関する学会委員会などの委員や世話役を務めています。
当院の精神科の取り組みについては、ぜひこちらをご覧ください。